
大阪の春を彩る、造幣局の桜

大阪の春の風物詩と言えば、造幣局の桜の通り抜け。
毎年4月中旬になると、大阪北区に位置する造幣局構内の通路は、
一般花見客のために解放されます。
ただし、お花見ができるのは、たったの1週間だけ・・・。
そのため、造幣局の桜が咲き始めると、大阪の人はソワソワし始めます・・・。
「部長、スミマセン~。今日は私、六時サッサ(定時上がり)しますね」
「あら、〇〇ちゃん、今日はデート?」
「ハイ、彼氏と造幣局に行く予定なんです♪」
(遠くで聞いていた他部署の人が寄ってくる)
「ウチも昨日子供連れて行ったで~。めちゃくちゃ混んどったよ」
(部長もサッと手を止める)
「混んでた? うちのおばあちゃんも行きたいって言うてたけど、ほな、明日休みとって行こかな」
筆者は新卒時代、大阪中央区のオフィスで働いておりましたので、
春になると、こんな会話を耳にしておりました。
大阪人はお喋り好きで、お世話好き。そして自然相手にも、義理堅いのです。
「桜が花時に咲くならば、人は花見に行かなあかん」
そんなわけで、私も誰と約束した訳でなくとも、造幣局の桜の通り抜けには毎年、行っておりました。
造幣局と桜の歴史
造幣局の桜の歴史を見てみましょう。
遡ること、江戸時代。
もともと造幣局のあった場所には、
藤堂藩の大坂蔵屋敷がありました。
藤堂藩は、全国から珍しい八重桜を集め、
堤に植えてコレクションにしていたそう。
明治政府により、蔵屋敷の一部は没収されてしまうのですが、
明治4年(1871年)、造幣局として生まれ変わりました。
藩の屋敷はなくなりましたが、
八重桜は造幣局の構内に移植され、
大切に受け継がれていくことになりました。
そして、明治16年(1883年)。
当時の造幣局長・遠藤謹助が
「局員の観桜ではもったいない。大阪市民の皆さん方と共に楽しもうではないか」
と発案したことによって、「桜の通り抜け」が始まったのです。
🌸こぼれ話 遠藤謹助とは?
遠藤謹助という人物は、知名度はあまり高くありませんが、「長州ファイブ」の一人。
「造幣の父」として、日本の近代化に重要な役割を果たした人物です。
🌸「長州ファイブ」とは?
幕末期、国禁を破って英国へ命がけの密航を遂げた、長州出身の五人の若者を言います。
遠藤謹助の他には、初代内閣総理大臣となった伊藤博文。
鹿鳴館で華麗なる外交を繰り広げた初代外務大臣の井上馨。
鉄道の父と讃えられた、井上勝。日本を工業国家へと導いた、山尾庸三。
遠藤謹助の交友関係を書き並べてみると、錚々たる顔ぶれであることが分かります。
また今回、この特集記事を書くために年譜を見ていて気が付いたのですが、
遠藤謹助と同時期には、大阪の経済発展に貢献した五代友厚も留学しているのです!
五代友厚は、NHKの朝ドラ『あさが来た』で、ディーン・フジオカが熱演したため、
記憶に残っている方も多くいらっしゃるかもしれませんね。
豪華な人脈を持ちながらも、偉ぶることなく、
美しい造幣局の桜並木を市民に開放しよう、と発案した遠藤謹助。
お人柄が偲ばれますね。
「通り抜け」と呼ばれる理由
造幣局の桜を見ることができるのは、造幣局南門から北門へ続く、約560メートルの通路です。
一般には、「通り抜け」という名前で親しまれていますが、
最初から「通り抜け」と名付けられていた訳ではありません。
花見客の混雑を緩和するために、一方通行としたため、
いつしか「通り抜け」という名称で呼ばれるようになったそうです。
花のいのち、人間のしごと
造幣局は、2021年に創業150周年を迎えています。 また、今年2023年は、「桜の通り抜け」が開始されてから、 140周年を迎えます。
これほど長く、同じ場所で桜を咲かせ続けるって、
とてもすごいと思いませんか?
一般的に、桜の寿命は40年~60年と言われています。
その上、桜は「忌地性」と言い、連作を嫌う植物です。
つまり、品種や本数を維持するためには、
人間によるお手入れが欠かせないのです!
造幣局を訪れる私たち人間は、
「来年もこの場所で、この桜を」
と望むのですが、それは本来、人間の都合。
造幣局の桜が、当たり前のようにその場所で咲き続けるには、
日々管理に奮闘する職員の方がいてこそ、なのです。
少しだけ、足をのばして
造幣局の一帯は、古くから景勝の地として知られ、
春には桜、夏には涼み舟・・・と、四季折々の賑わいがありました。
特に、大川を挟んだ対岸「桜ノ宮」は江戸時代から桜の名所と知られ、
上方落語や錦絵にも見ることができます。
🌸毛馬桜之宮公園
大川の両岸に広がる4.2キロのリバーサイドパーク。
毛馬橋から都島橋、源八橋、天満橋に至る両岸は桜が咲き誇り、
美しい景色を楽しむことができます。
🌸大阪城公園
言わずと知れた、関西屈指の桜の名所。
特に、西の丸庭園では、ソメイヨシノを中心に約300本の桜を見ることができます。
夜間にはライトアップされた夜桜も楽しめます。
お出かけ前には、入念なチェックを!
浪速の春を飾る恒例行事・桜の通り抜け。
しかし、大人気スポットというだけあって、混雑は避けられません。
2020年、2021年については、新型コロナウイルスの影響によって、中止を余儀なくされました。
2022年は、感染対策を講じた上で、3年ぶりに開催されましたが、
今年も昨年に倣って、事前申込制のようです。
詳細は造幣局のホームページに掲載されますので、お出かけされる前にはチェックしてみてくださいね。