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執筆者:奈良派爺さん
交通安全観世音菩薩特集

交通安全を祈願する交通安全観世音菩薩

執筆者:奈良派爺さん
執筆者:奈良派爺さん

交通安全を祈願する交通安全観世音菩薩とは

1.観世音菩薩とは

ご存知の通り、仏像には「如来」「菩薩」「明王」「天」の4つの序列があります。この中で、菩薩は「悟りを求め、如来になるべく修行している姿」を表しており、観世音菩薩や弥勒菩薩や勢至菩薩や地蔵菩薩など、多くの種類の菩薩が存在します。また、菩薩は極楽浄土へ導いて下さると共に、家内安全・交通安全や身体健康などの現世利益を叶えてくださる存在でもあります。
観世音菩薩は観音菩薩とも略され、また「観音様」との愛称で親しまれ、古くから信仰を集めて来ました。ご本尊として祀る寺院も多く、西国三十三カ所巡礼に代表される観音巡礼が全国各地で現在も盛んに行われています。さらに、観音菩薩には人の姿に似た聖観音菩薩の他に、十一面観音菩薩や千手観音菩薩など、多くの種類の観音菩薩が存在します。

2.交通安全観世音菩薩とは

観世音菩薩の位置付けは上記の通りですが、交通安全観世音菩薩と呼ばれる観音菩薩は、仏像の区分としてはありません。ネットで検索すると、確かにいくつかの交通安全観世音菩薩と称する観音菩薩がヒットします。しかし、これは「交通安全」を祈願して造立された観音菩薩を、このように呼称しているものだと言えます。
また、交通安全を祈願して造立される観音菩薩には、寺院が交通事故死された多数の方々を弔うために造立されたものと、交通事故死された方の遺族が寄進されたものがあります。後者のケースの場合に、交通安全観世音菩薩と称されていることが多いようです。本来の観音菩薩の種別では、人の姿に近い聖観音菩薩や十一面観音菩薩が選ばれている様です。

交通安全を祈願して造立された一心寺の観世音菩薩

1.関西では「お骨仏の寺」として有名な一心寺の概要

大阪市天王寺区にある聖徳太子が開かれた四天王寺と、谷町筋を挟んで反対側(西側)に、「お骨仏の寺」として関西で大変有名な一心寺があります。
この寺院は、1185年に浄土宗の開祖の法然上人が、この地に草庵を結び、「日想観」を修められたのが始まりとされる由緒ある寺院です。江戸時代末期には年中無休で施餓鬼法要を行う「おせがきの寺」として賑わい、明治20年に最初のお骨仏が造立されてからは「お骨仏の寺」として知られています。現在では、毎日多くの納骨が、流れ作業で行われるほど活況を呈しています。
お骨仏とは、この寺院に納骨された焼骨を砕き、特殊な加工を施し、それを材料として造立された阿弥陀如来像です。当初は分骨された少量の骨を集め、10年に1躰のお骨仏が造られてきました。しかし、永代供養の納骨を受け入れるようになり、またお墓ではなく、永代供養の施設に納骨する傾向が強まったことで、余りにも多くの納骨が続いたため、ついに骨壺の全骨の受け入れを中止し、再び小量の受け入れに制限される事態となっています。

お骨仏(少し古い時代のもので、煤けて写りが悪い)
お骨仏(少し古い時代のもので、煤けて写りが悪い)

ちなみに、私の義父も一心寺に納骨され、最も新しいお骨仏の一部となっています。今回の記事を書くに当たっても、最初にお骨仏に線香と花を手向け、その後で参拝者の邪魔にならぬように境内の写真を撮影させてもらいました。

2.境内の伽藍

一心寺を初めて訪れると、誰もが現代彫刻の仁王像と現代建築による山門に驚かされます。

山門
山門

境内はそれほど広くはなく、境内に入ると斜め左に本堂、その左に線香の煙にかすむ中、多くの参拝者が手を合わせておられる納骨堂があります。また、右手の手前には屋根の上に金色の相輪のある念仏堂(納骨受付)と、その前の観音菩薩像が目に飛び込んできます。その他にも、いくつかの建造物がありますが、いずれも比較的新しい建造物です。この一心寺は、歴史のある寺院ですが、歴史的建造物や仏像に触れ、鑑賞するような寺院ではなく、現在も納骨堂を中心に多くの庶民が先祖供養のお参りを行う活気ある寺院なのです。お彼岸やお盆には、境内が人であふれ返るほどです。その一方で、山門や後に記す三千仏堂など、現代的な驚きと感動を受けることが出来る寺院でもあります。

  • 納骨堂
    納骨堂
  • 本堂
    本堂

3.交通安全を祈願して建立された観音菩薩像

お彼岸やお盆には、境内は参拝者であふれ返りますが、多くの方は本堂に一礼し、納骨堂に線香とお花を供え、合掌されます。しかし、念仏堂の手前にある観音菩薩像に手を合される方は余りおられません。
この観音菩薩は立像で、左手に蓮の花を持っておられ、その持ち物と頭部や全体のお姿から、観音菩薩像の種類としては、聖観音菩薩と思われます。この観音菩薩は、交通安全を祈願して寺院が造立されたもので、交通事故で亡くなられた方のご遺族等が寄進されたものではないようです。しかし、どこにも交通安全祈願のために造立されたものだとの記載はありません。従って、この観音菩薩に交通安全以外の、家内安全や身体健康などを祈願することも可能です。

  • 交通安全を祈願して造立された観音菩薩像
    交通安全を祈願して造立された観音菩薩像

一心寺に参拝される方は、お墓参りとして先祖の供養に訪れられるのでしょうが、この観音菩薩像にもお参りし、今を生きる自分や家族の健康や安全を祈願されると良いでしょう。

4.ぜひ見学したい独特な雰囲気の三千仏堂

一心寺は境内が狭いために、講堂に当たる三千仏堂はすぐ近くの境外にあります。この堂内には大きな壁が円周の廻廊の前にそそり立っており、そこに無数の仏像と、それを守護する十二神将像が祀られています。 仏像は寄付により順次造立されており、最終的には千躰が祀られる予定です。壁面に沿って右回りに廻廊を三回巡拝することで、現在・過去・未来の三世の諸仏に懺悔減罪を祈念することが可能とされており、そこから三千仏堂と名付けられたそうです。
さらに壁面の入り口から、堂内に入るとシアター風の空間が広がっており、正面には雪山と呼ばれるヒマラヤの山並み風景をバックにした巨大な阿弥陀三尊像が描かれています。柔らかな照明を受けて美しく、厳かな雰囲気を醸し出しています。このお堂は、寺院の講堂に当たり、様々な説法はもとより、仏前結婚式を挙げることも出来、また社会活動の拠点としても使われています。

  • 千躰仏像
    千躰仏像
  • 阿弥陀三尊像画
    阿弥陀三尊像画

一心寺は先祖を供養する人々が参拝する寺院であり、観光気分でお骨仏などの見学に訪れることを、寺院側は拒んでいます。ただし、山門を見学し、境内に入って雰囲気を体験し、観音菩薩像に手を合わせることは許されるでしょう。また、参拝者に迷惑を掛けることのない三千仏堂も見学されても良いでしょう。

街角にある地蔵菩薩と交通安全

交通安全を祈願して造立された仏像としては、街角に見られる地蔵菩薩像もあります。町内会等により造立された地蔵菩薩には、子供の安らかな成長を願う子安地蔵・出世地蔵や長寿を祈願する延命地蔵が圧倒的に多く、小さなお堂に祀られているのが一般的です。
しかし、交通事故で亡くなった子供の供養と交通安全を祈願して、事故のあった付近に造立された地蔵菩薩もあります。これは交通安全観音菩薩と同じ趣旨であり、交通安全地蔵菩薩と呼ぶことが出来るでしょう。
こうした地蔵菩薩はお堂に祀られることなく、車や通行人の目にとまる形で建てられており、街で見受けた際には、造立された意味をかみしめ、改めて交通安全に想いをいたしたいものです。