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執筆者:Suzy
梅に関する特集

山梨 不老園 菅原道真の祀られる梅天神&富士山・南アルプスを一望できる展望台がある梅の名所

執筆者:Suzy
執筆者:Suzy

2月になると立春、まだ寒い日が続きますが暦の上では春ですね。
少しずつ暖かくなり、各地から、梅の開花便りの記事が届いていますね🌺 皆さんの住まれている場所ではどうですか?

山梨県の真ん中辺りに位置する甲府盆地周辺では梅の見ごろを迎えていると、発表がありました。
甲府周辺には梅の名所がいくつかありますが、今回は「不老園」という名前の梅の名所があるというので行ってみることにしました。

山梨県には古くから「甲斐路(かいじ)の春は、不老園から始まる」という言葉があり、甲府地域に春の訪れを告げる梅の名所として、地元の人たちに親しまれています。

甲斐路(かいじ)の“甲斐(かい)”=山梨県の昔の呼び名

不老園は梅の花の咲く間だけの期間限定の開園とのこと。
見ごろを見逃さないように毎日ホームページでチェックしていたところ、見ごろを迎え天気も良好との予報だったので朝一番に入園できるよう早めに出発しました。
それでは、山梨県の不老園から梅の便りをお知らしますね。

山梨県の不老園
山梨県の不老園

①不老園の由来は?

梅の木は各地にあり、桜より前に咲く日本人にはなじみのある花ですね。 そんな私たちになじみのある梅は、元々九州地方に自生していたという説もありますが、奈良時代以前に中国から遣唐使が持ち帰ったという説もあるそうです。 梅は日本の国土に合ったため、庭木として植えられ広まって行きました。

不老園は、明治30年(1897年)、山梨県甲府市内の呉服商の7代目奥村正右衛門が別荘として開園したのが始まりです。
JR中央線酒折(さかおり)駅より徒歩5分、山梨県甲府市東部の山地5万平方メートルに及ぶ広大な園に20種類、3000本もの梅の木が植えられています。
奥村正右衛門は、北海道を除く全国各地を自ら回り、特に九州地方から紅梅、小梅、夫婦梅、ブンゴ梅などを持ち帰り、園に植え付けたそうです。
自らの足で梅を調達に行くなんてとても梅愛の強い、行動力のある方だったのですね。
30年間、山を切り崩し、谷を生かし、庭を造り、梅、桜、ツツジ、牡丹を植え、庭園造りに没頭したそうです。
大正13年86歳で生涯を閉じたあとは、息子さんが引き継ぎましたが、恒久的維持のために平成26年より一般財団法人として運営されています。

中国の古事*1「不老の門を入り奇岩・名木の間を*2 逍遥(しょうよう)して長生の庵に至る」に習い、梅園を「不老園」と名付けたそうです。

*1 古事…“故事(こじ)は、大昔にあった物やでき事。また、遠い過去から今に伝わる、由緒ある事柄。特に中国の古典に書かれている逸話のうち、今日でも「故事成語」や「故事成句」として日常の会話や文章で繁用されるものをいう。”(ウィキペディアより)

*2 逍遥(しょうよう)…気の向くままに、あちこち歩き回ること。行楽。

②梅天神 菅原道真の祀られる神社で絵馬を奉納

梅天神
梅天神

不老園の一番の見どころ、梅天神です。
不老園に祀られている梅天神の御祭神は、かの有名な学問の神様、菅原道真公です。
Marcionの厘の記事“梅特集”でtakadaさんが執筆された、太宰府天満宮の記事で、菅原道真について詳しく紹介して下さっていますね。
菅原道真は平将門、崇徳(すとく)天皇とともに“日本三大怨霊”と言われ、最初は祟り神として祀られていましたが、時代とともに恐怖心が薄れ、誠実な人柄を慕う人たちから「神様」として信じられるようになりました。 幼少期からの優れた文才や、朝廷のナンバー3の位に匹敵する右大臣にまで出世した政治家としての才能が見直され、江戸時代頃から学問の神様として信仰の対象になりました。
東京の湯島天満宮、京都の北野天満宮、福岡の太宰府天満宮が有名ですね。
他にも、全国各地に天神社、天満宮があり、Marcion記事内でも紹介されていますね。
特に、福岡の太宰府天満宮は全国天満宮の総本山として受験生にも人気ですね。
こちらの不老園にも、昭和52年(1977年)2月に北野天満宮より分霊されました。
梅は、歳寒三友(さいかんさんゆう)*3と言われ、菅原道真公のお気に入りの花だったそうです。

*3 歳寒三友(さいかんさんゆう)…冬の寒い季節に友となる松竹梅の3種類の植物こと。東洋画題の1つ。

不老園にある梅天神の例祭日は毎年2月25日、菅原道真公の命日です。
ちょうど、梅の開花時期に菅原道真公は亡くなったのですね。
奥村正右衛門は、同じ梅愛好家なので菅原道真を祀ったのでしょうか。

❀『東風吹かば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春を忘るな』❀

この歌は、菅原道真が無実の罪を着せられて太宰府へ左遷される前に、大切にしていた梅の木を前にして詠んだ唄だそうです。
この歌により、道真が愛した梅の花が、一夜にして京都から九州に飛んできたと言われているそうです。
この梅がはるばる飛んだという飛梅伝説の梅が太宰府天満宮の記事でも紹介されていましたね。
自分がいなくても、梅の花の香りを送って…と、自分の命は長くないと察して悲しげに詠んでいたのだろうと思います。
合格祈願だけでなく、詩歌や文筆の上達などの創作分野でも神力を貸してもらえるそうですよ。
絵馬は、売店で購入でき、ペン🖊も貸してもらえました。

梅天神へ奉納した絵馬 菅原道真のイラスト
梅天神へ奉納した絵馬 菅原道真のイラスト

③富士山・南アルプスを一望できる展望台

不老園の、展望台からは甲府盆地の街並み、その向こうには南に富士山、西に南アルプスの山々の美しい景観が一望できる絶景スポットです。
ここから見る夜景もさぞ綺麗だろうなと思います。

・富士山側🗻
今日は運よく快晴。なだらかな山々の向こうに、雲をかぶった富士山の頭が見えました。

・南アルプス側⛰
間ノ岳(あいのだけ)など日本百名山を含む3000m級の山々が立ち並ぶ光景。
山に囲まれた自然の恵みの多い県だとつくづく実感しました。
山の名前が書かれた掲示板があるので、どれがどの山か確認できますよ。

甲府盆地と南アルプス方面の山々
甲府盆地と南アルプス方面の山々

④長生閣(ちょうせいかく)・逍遥(しょうよう)の池・喜楽庵(きらくあん)

1918年(大正7年)に建てられた長生閣(ちょうせいかく)と名付けられた和風の建物です。
日本庭園、少し離れに、風情ある一階建ての木造家屋、喜楽庵もあります。
長生閣はカフェになっていて、畳の座敷で、ゆったりとした時間を過ごすことができます。
梅の花に囲まれた庭園を鑑賞しながら、大正時代の雰囲気を残すカフェで、一息つけそうです。

  • 長生閣入口
    長生閣入口
  • 長生閣の庭園
    長生閣の庭園
  • 長生閣の庭 逍遥(しょうよう)の池
    長生閣の庭 逍遥(しょうよう)の池

長生閣 カフェ
営業時間:午前10時~午後3時まで。
<メニュー>
・コーヒー・紅茶・抹茶・甘酒・おしるこ etc

喜楽庵は、奥村正右衛門の死後、正右衛門の奥さんが隠居生活をした離れの家です。
こじんまりした、ガラス窓に囲まれた雰囲気が良い落ち着いた家屋でした。
喜楽庵内は入れませんが、外から家屋の様子を見学できますよ。
お年寄りが、ゆったりと過ごせそうな雰囲気です。

  • 喜楽庵門
    喜楽庵門
  • 園内に祀られた祠
    園内に祀られた祠

⑤富士見橋とかぶと岩

富士見橋
富士見橋

富士見橋からは、甲府盆地の街並み、富士山の頭が見えました。
奥村正右衛門が梅園を整備していた時代、街に背の高い建物がない分、今より見通しが良い素晴らしい景観が楽しめたのだろうと想像します。

富士見橋の近くに、兎の彫刻が…🐇。
切った梅の木を兎の形に彫ったのかな?
今年は兎年ですね。

  • 兎の彫刻
    兎の彫刻

富士見橋のすぐ近くにある‘かぶと岩’は、大きなごつごつした岩でした。
園内に何か所か、こういったごつごつした岩がありました。
不老園の名の言われ「不老の門を入り奇岩・名木を逍遥して~」にあるように奇岩を園内の何か所かに配置したのでしょうね。

かぶと岩
かぶと岩

⑥松尾芭蕉句碑

松尾芭蕉句碑
松尾芭蕉句碑

「咲き乱す 桃の中より初桜」
松尾芭蕉が詠んだ句の刻まれた句碑は、1856年に当時の俳人たちにより建てられたそうです。

⑦お土産屋さん&売店

お土産屋さん
お土産屋さん

園内には数か所売店があり、梅干し、梅ゼリー、梅ようかんなどの梅スイーツ、梅酒などのアルコール類、ドライフルーツ、乾物などたくさんの品ぞろえ。
梅酒などのアルコール類は、不老園から少し山を登ったところにあるワイナリーで製造されたものだと店員さんが教えてくれました。
売店では、試食もでき、元気な店員さんが、お勧めを紹介してくれますよ。

  • 園内にあるお休みどころ
    園内にあるお休みどころ

お休みどころには、ビール、ジュース、アイスクリーム、甘酒、麺類などが売られています。
焼き団子、どら焼き、和菓子、甲州名物レーズンなどを売る売店も。
園内の所々に設置されているベンチに座り、梅の花と遠くに見える山々の景色を堪能しながら散策です。

  • 所々にあるベンチ
    所々にあるベンチ
  • 園内のブランコ
    園内のブランコ

まとめ

早咲き、中咲きの梅が見ごろを迎えた不老園はどうでしたか?
これから遅咲きのものも見ごろを迎えます。
1か月強、という短い梅の花の命を垣間見ることを昔から人々は楽しみにしていたのだと思いました。
奥村正右衛門によって梅の木が植えられてから、120年以上たった今も、正右衛門の意志を継いで大切に保存・維持されている梅園。
奥村正右衛門の他の人にも梅の美しさを味わってもらいたいという梅へ熱い思いが感じられる場所でした。
太宰府天満宮に植えられている梅の種類と本数にはかないませんが、こちらも綺麗な梅が堪能できますよ。
スタッフの方が皆さんとてもフレンドリーで気さくに話しかけて下さり、梅のことを教えてくれました!
園内にはブランコもあり、お子さん連れでも楽しめそうです。
園入口に木の杖が置かれているので、高低差が心配な人は杖を借りることができます。
年配の方は、マイポールを持参している方もいました。
春期限定の開園ですが、紅葉の時期も臨時開園することもあるそうです。
紅葉の季節も、要チェックですね🍁

不老園近隣には、山梨じゅうのワインを集めた日本ワインが楽しめる「シャトー酒折ワイナリー」、山梨の戦国武将武田信玄建立の「甲斐善光寺」、お土産が充実する山梨県地場産業センター「かいてらす」、子どもも大人も楽しめる「山梨県立科学館」など見どころがたくさんありますよ。
不老園は1~2時間で散策できるので、散策の後、これらの施設、名所を巡るのも良さそうです。

【不老園 基本情報】
住所:山梨県甲府市酒折3丁目4-3
開園期間:2月~3月下旬
入園料:大人(中学生以上)/500円、小学生/200円、未就学児/無料、障害者手帳をお持ちの方/無料
※公式ホームページよりクーポンを印刷・持参で割引あり
開園時間:9:00~17:00(受付は16:00まで)
アクセス(公共機関の場合)
JR中央本線酒折駅より徒歩5分
山梨交通・富士急行路線バス、酒折宮入口バス停より徒歩7分
車の場合(無料駐車場あり)
中央道「一宮御坂IC」で降り、R20号(甲府バイパス)へ出て約15分ほど
園内は高低差があるので歩きやすい靴、軽装が望ましい
お手洗い:園内に3か所
天候により臨時休園するため、事前に開園状況をチェックしてから行くのがお勧めです
不老園ホームページ…リアルタイムの開花情報はホームページやツイッターで確認できます

🐾ちょっと寄り道 酒折宮(さかおりのみや)古天神
神話に登場し、九州から東北まで日本全国を平定した英雄、日本武尊(倭建命=やまとたけるのみこと)は、富士山の麓だけでなく、山梨県甲府方面にも立ち寄っていたようです。
不老園北側の山道を登ること5分ほどのやぶの間に、日本武尊が立ち寄ったとされる場所がありました。
古事記によると、日本武尊が東征の際に山梨県に立ち寄った際、酒折宮(さかおりのみや)で軍を休めました。
その時、日本武尊は東征を振り返り
「新治(にいはり) 筑波(つくば)を過ぎて幾夜が寝つる」と詠いました。
“茨城県を立ってから何日たったか”という問いかけだったけれど、重臣たちは歌を返すことができなかった。
そこで、焚火をしていた老人、御火焼翁(みひたきのおきな)が
「かがなべて 夜には九夜日には十日を」
と答えたそうです。
このやり取りが、連歌の起源とされ、連歌発祥の地とされているそうです。
今は、ここ古天から神少し離れた場所に本宮が建てられ、立派な社殿を構えています。(酒折宮)
山梨県で唯一、古事記、日本書紀に記載のある古い神社で、日本武尊を御祭神とする歴史ある神社です。
日本武尊ファンなので、次回行ってみたいです。

日本武尊(倭建命)が訪れた連歌発祥の地
日本武尊(倭建命)が訪れた連歌発祥の地

参考文献
・身近にあふれる「神社と神様」が3時間でわかる本(後藤泰弘、明日香出版社)
・やまなしのお寺と神社(やまなし観光推進機構)